相続手続きの際に取得しておくと便利な「法定相続情報一覧図」ですが、
ケースによっては法定相続情報一覧図が相続手続きで使えないこともあります。
では法定相続情報一覧図が使えないのはどういったケースなのか、
そもそも法定相続情報一覧図とは何なのかなどについて詳しく見ていきましょう。
法定相続情報一覧図とはどんなもの?
法定相続情報一覧図が使えないケースを紹介する前に、
法定相続情報一覧図とはどういうものなのかを理解しておく必要があります。
法定相続情報一覧図は簡単に言うと、
亡くなった人と配偶者や子孫などの相続人との関係をまとめた家系図のようなものです。
相続人が任意で作成する単なる家系図と違って、
法務局の登記官に認証してもらうことで相続時の公的書類として使えるようになります。
2017年に始まった「法定相続情報証明制度」によるもので、法定相続情報一覧図が
使えるようになったことで相続手続きがかなりスムーズに進められるようになりました。
相続関係説明図とは別物
法定相続情報一覧図に似たものとして「相続関係説明図」がありますが、
これは全くの別物です。
法定相続情報一覧図は法務局の登記官の認証を得た公的書類で、相続手続きの
際には法定相続情報一覧図だけで被相続人と相続人の関係が証明できます。
相続関係説明図は弁護士や司法書士など士業が任意で作成した書類で、
法定相続情報一覧図のような法的効力は一切ありません。
相続手続きの際に相続関係説明図を提出しても参考資料程度の扱いにしかならず、
戸籍謄本など公的書類の提出は免れないのです。
法定相続情報一覧図の取得方法
戸籍謄本などのように法定相続情報一覧図はどこかの役所に申請すれば
すぐに手に入るといったものではありません。
法定相続情報一覧図を取得するには、まず決まった書式に則って
法定相続情報一覧図を自分で作成するところから始める必要があります。
法定相続情報一覧図を作成するには、相続人を確定させるために被相続人すなわち
亡くなった人の出生から亡くなるまでの全ての戸籍謄本が必要です。
次に相続人全員の戸籍謄本、法定相続情報一覧図に住所を記載する場合には
現住所を証明する住民票も取得しておかないといけません。
必要な書類を集めて書式に則って法定相続情報一覧図を作成したら、
申出書と申出人の本人確認書類を添えて法務局に提出します。
法務局に直接足を運んで窓口に提出しても良いですし、郵送での提出も可能です。
提出した法定相続情報一覧図の認証が得られるまでに期間はケースごとに違いますが、
早ければ数日、遅いと数週間かかることもあります。
提出した書類に不備が無く受付が完了すれば、
いつぐらいに認証された法定相続情報一覧図が交付されるかを教えてもらえます。
戸籍謄本や住民票の取得に手数料はかかるものの、
法定相続情報一覧図の取得自体には費用はかかりません。
法定相続情報一覧図の取得は代行も可能
法定相続情報一覧図の取得手続きは基本的に申出人本人が行いますが、
代行も可能となっています。
申出人の親族はもちろん
・弁護士
・司法書士
・行政書士
・税理士
・弁理士
など士業の代行も認められています。
相続手続きには不動産の名義変更や相続税申告が絡むことも多いので、
登記ができる司法書士や税申告ができる税理士に依頼するのが一般的です。
先に挙げた士業であれば亡くなった人や申出人の戸籍謄本などの取得代行も
可能なので、法定相続情報一覧図の取得について丸投げすることも可能です。
ただし士業に代行してもらう場合には、法定相続情報一覧図の取得自体には
費用がかからないものの代行する士業の報酬が発生します。
司法書士や税理士に代行を依頼すると、戸籍謄本などの取得にかかる実費とは別に
大体4~5万円程度はかかると思っておきましょう。
また司法書士などの士業に法定相続情報一覧図の作成・取得を
代行してもらう場合には委任状も必要です。
認証を受けた法定相続情報一覧図は5年間保管される
法務局の登記官による認証を受けた法定相続情報一覧図は、
法務局に5年間保管されることになります。
法務局に保管されている5年間はいつでも何通でも無料で法定相続情報一覧図を
取得することが可能です。
例えば父が亡くなった時に作成して認証を受けた法定相続情報一覧図を、
1年後に実家を相続登記するのに取得して使えます。
ただし子が先に亡くなって代襲相続が発生するなど、相続権のある人や数が変わると
法定相続情報一覧図を作り直さなければいけません。
法定相続情報一覧図にはツリー形式と列挙形式がある
法定相続情報一覧図は所定の書式に則って作成しますが、
「ツリー形式」と「列挙形式」の2つの形式のいずれかを選んで作成できます。
ツリー形式はいわゆる家系図のような形式で、
一般的に法定相続情報一覧図と言うとツリー形式を指すことが多いです。
列挙形式は被相続人と相続人の名前・住所・被相続人との続柄を列挙しただけの
法定相続情報一覧図です。
被相続人に離婚歴が無くて婚外子いわゆる認知した子が居ない場合には、
シンプルな列挙形式の法定相続情報一覧図を作ることがあります。
ただ列挙形式の法定相続情報一覧図だと、
被相続人に先妻に引き取られた子や婚外子の有無が分かりにくいです。
そのため相続手続きで列挙形式の法定相続情報一覧図を使うと、
別途被相続人の戸籍謄本や除籍謄本の提出を求められる恐れがあります。
被相続人の戸籍謄本や除籍謄本を提出するなら法定相続情報一覧図の意味が
無いので、法定相続情報一覧図を作るなら列挙形式ではなくツリー形式を選びましょう。
法定相続情報一覧図を作成するメリット
法定相続情報一覧図を作成するメリットとしては、
相続手続きに必要な書類が少なくて済むことが挙げられます。
実際に相続手続きをすると分かりますが、手続きごとに被相続人の
出生から亡くなるまでの戸籍謄本と相続人の戸籍謄本を提出します。
本籍地を変更していない離婚歴が無いと場合は戸籍謄本の枚数は少ないですが、
本籍地を変更していたり離婚歴があると戸籍謄本の枚数が多くなります。
何度も本籍地を変更していると被相続人の戸籍謄本だけで何枚にもなり、
それを手続きのたびに1枚ずつ確認されるのです。
場合によっては戸籍謄本の確認だけで1時間ぐらいかかってしまうこともありますが、
法定相続情報一覧図があれば戸籍謄本は必要ありません。
手続きでの書類確認も法定相続情報一覧図だけで済むので、
相続手続きにかかる時間の節約にも繋がります。
また手続きのたびに戸籍謄本を取得する必要がありませんから、
相続手続きに必要な書類の収集にかかる費用も節約できるのです。
両親など近しい親族が亡くなると、
悲しむ時間も無いほどに相続を含めた様々な手続きに追われます。
ただでさえ忙しい遺族の負担を少しですが軽くできるのが
法定相続情報一覧図を作成する最大のメリットです。
法定相続情報一覧図を作成するデメリット
何事もメリットがあればデメリットもあるもので、
法定相続情報一覧図を作成することにはメリットだけでなくデメリットもあります。
法定相続情報一覧図を作成する最大のデメリットは「時間と手間がかかること」です。
相続以外にも様々な手続きをしないといけない中で、戸籍謄本など必要な書類を
集めた上で自分で法定相続情報一覧図を作らないといけません。
また法務局に申し出をしてから認証がもらえるまでに数週間かかるケースもあります。
法的効力を持つ公的書類となりますから、少しでも不備があると認証してもらえず
法定相続情報一覧図を作るところからやり直しとなる恐れもあるのです。
近しい親族が亡くなった心労を抱える遺族が行うには面倒すぎる作業・手続きで
あることが法定相続情報一覧図を作成する最大のデメリットです。
法定相続情報一覧図は相続が発生しないと作れない
法定相続情報一覧図は相続が発生した時に作成するもので、
事前に作成しておくことはできません。
相続が発生していない状態では相続権のある人や相続人の数を確定できませんから、
法定相続情報一覧図は作れないわけです。
両親が高齢となっていつ相続が発生してもおかしくないので
今のうちに法定相続情報一覧図を作っておこう、といったことはできないのです。
法定相続情報一覧図が使えないケースとは
法定相続情報一覧図は法的効力を持つ公的書類ですが使えないケースもあります。
法定相続情報一覧図と実際の相続人に相違がある場合には、
相続手続きに法定相続情報一覧図を使うことは当然できません。
例えば父が亡くなって相続人が父の配偶者である母と子の2人だとします。
相続人である母と子が健在であれば父が亡くなった時点で作成した
法定相続情報一覧図を使っての手続きが可能です。
しかし法定相続情報一覧図を作って相続手続きに入ろうとした時に子が
相続放棄をすると、作成した法定相続情報一覧図は使えなくなってしまいます。
法定相続情報一覧図を作成した後で相続権のある人や相続権を失う人が出てくると、
法定相続情報一覧図が使えなくなってしまうわけです。
相続手続き以外では法定相続情報一覧図は使えない
法定相続情報一覧図が使えるのは
・被相続人の預貯金口座の解約、払い戻し
・相続登記
・株式や投資信託の名義変更
・自動車などの名義変更
・相続税申告
・被相続人の年金手続き
といった相続関係の手続きのみです。
法的効力を持つ公的書類とは言っても、
法定相続情報一覧図を相続に関係の無い手続きには使用できません。
相続関係の手続きでは戸籍謄本や住民票の代わりとなるものの、
相続関係以外の手続きでは法定相続情報一覧図はただの紙切れでしかないのです。
法定相続情報一覧図が作れないケースも
使えない以前に法定相続情報一覧図が作れないケースもあります。
法定相続情報一覧図を作成するには亡くなった被相続人の出生から亡くなるまでの
戸籍謄本が必要です。
亡くなった被相続人の出生から亡くなるまでの全ての戸籍謄本が
集められない場合には法定相続情報一覧図が作れない恐れがあります。
存命者が居ない戸籍は除籍簿となって管理され、
一定の保存期間が経過すると廃棄されてしまいます。
被相続人の出生時の戸籍が除籍簿となっていて一定の保存期間が経過して
廃棄されていると取得できないことになるわけです。
出生時以外の戸籍が全て揃っていれば作れる可能性はありますが、一部の戸籍が
物理的に取得できないことで法定相続情報一覧図が作れない恐れはあります。
被相続人もしくは相続人に外国人が居る
被相続人が外国人もしくは相続人に外国人が含まれる場合は
法定相続情報一覧図が作れません。
これは外国人を差別しているわけではなく、
単純に外国人は日本に戸籍を持っていないので戸籍謄本が取得できないからです。
例えば被相続人自身が日本人と結婚して日本に永住している外国人の場合、
被相続人の出生から亡くなるまでの戸籍謄本が取得できません。
戸籍謄本が無いと相続権のある人や相続人の数を客観的に確定できないので、
法定相続情報一覧図が作れないわけです。
被相続人の配偶者が外国人で相続権を持っている場合も、
外国人の配偶者の戸籍謄本が取れませんから法定相続情報一覧図は作れません。
ただし外国出身でも相続が発生した時点で日本に帰化していれば、
日本に戸籍があって戸籍謄本も取れるので法定相続情報一覧図の作成は可能です。
一部の金融機関の相続手続きでは法定相続情報一覧図が使えない?
法定相続情報一覧図についてネットで調べていると、一部の金融機関で
相続手続きをする際に法定相続情報一覧図が使えなかったという情報が出てきます。
法定相続情報一覧図は相続手続きにおいては戸籍謄本や住民票の代わりと
なるものですから、金融機関の相続手続きに使えないことは基本的にはありません。
ただ法定相続情報証明制度は2017年開始の新しい制度で、法定相続情報一覧図を
使った相続手続き方法が十分に周知されていないことがあります。
法定相続情報証明制度自体の周知が十分でないため、金融機関の担当者が
法定相続情報一覧図の法的効力を理解していないことがあるのです。
担当者が法定相続情報一覧図について理解していないと、法定相続情報一覧図を使って相続手続きを行おうとすると別途戸籍謄本の提出を求められます。
相続手続きをする側が「担当者がそう言うなら」と納得してしまうので、一部の
金融機関では法定相続情報一覧図が使えないという情報が出回ってしまうわけです。
相続手続きにおいて法定相続情報一覧図は戸籍謄本や住民票の代わりとなるので、
金融機関の相続手続きで法定相続情報一覧図が使えないことはありません。
もし担当者に別途戸籍謄本の提出を求められる場合は、上司など責任ある立場の人に
確認してもらうことで法定相続情報一覧図が使えるようになるはずです。
法定相続情報一覧図の作成を士業に代行してもらっている場合は、
金融機関の担当者に士業から説明してもらうのも良いかもしれません。
まとめ
法定相続情報一覧図は被相続人と相続人の関係を明確にして、
相続権のある人や相続人の数を確定させるものです。
法定相続情報一覧図があれば相続手続きで戸籍謄本や住民票が不要となるので、
相続手続きがスムーズにできます。
一部金融機関では相続手続きに法定相続情報一覧図が使えないという情報も
ありますが、基本的には全ての相続手続きで法定相続情報一覧図は使えます。
ただ法定相続情報証明制度自体の周知が進んでいないため、金融機関によっては
法定相続情報一覧図の使用を断られることもあるので注意してください。