「法定相続情報一覧図」には被相続人と全ての相続人が記載されますが、
では相続が発生した時点で死亡した相続人が居るとどうなるのでしょうか?
相続時点で死亡した相続人が居る場合の書き方など、
法定相続情報一覧図について詳しく見ていきます。
法定相続情報一覧図とは?
死亡した相続人が居る場合の書き方の前に、
そもそも法定相続情報一覧図が何かを紹介しておきましょう。
法定相続情報一覧図は「法定相続情報証明制度」に基づいた公的書類です。
親や兄弟など近しい親族が亡くなったことで発生した相続について、
被相続人と相続権を持つ相続人全員の情報をまとめた一覧図となります。
戸籍謄本を元に法定相続情報一覧図を作成して法務局に申出書とともに提出、
不備が無ければ登記官の認証を受けて公的書類として相続手続きに使えます。
法定相続情報証明制度が開始される以前は、亡くなった人の金融機関口座解約や
不動産の名義変更などの相続手続きには相続人の戸籍謄本が必要でした。
不動産は自宅だけで口座も1~2つしか持っていなければ良いですが、不動産も口座も
たくさんだと相続手続きに相当枚数の戸籍謄本を用意しなければいけません。
亡くなった人いわゆる被相続人については出生から亡くなるまでの戸籍謄本が
必要ですから、戸籍謄本を取得するのにかかる手数料も嵩みます。
法定相続情報一覧図は被相続人と相続人全員の戸籍謄本に代わる書類として
使えるので、相続手続きで使う書類を少なくできるのです。
相続手続きを受け付ける側もチェックする書類の数が少なくなりますから、
手続きもスムーズに進められます。
ただ相続手続きを行うことが頻繁にはないことに加えて2017年開始の比較的新しい
制度のため、法定相続情報一覧図の存在を知らない人も少なくないのです。
法定相続情報一覧図は無料で作成・取得できる
法定相続情報一覧図は相続手続きで使える公的書類ですが、
作成や取得に手数料はかかりません。
戸籍謄本を取得するには1通あたり数百円の手数料がかかりますから、
相続の手続き先が多くて戸籍謄本をたくさん取得することになると手数料が嵩むのです。
法定相続情報一覧図は最初の作成時に被相続人の出生から亡くなるまでの
戸籍謄本と相続人全員の戸籍謄本が必要です。
最初に被相続人と相続人全員の戸籍謄本を取得するのに費用はかかりますが、
法定相続情報一覧図を作成すること自体には手数料は発生しません。
作成して登記官の認証を受けた法定相続情報一覧図は5年間法務局に保管され、
保管期間内は何度取得しても手数料はかからないのです。
法定相続情報一覧図1枚で被相続人と相続人の戸籍謄本の代わりとなる上、
取得に手数料がかからないので相続手続きにかかる費用が抑えられます。
法定相続情報一覧図は被相続人1人につき1枚
法定相続情報一覧図は被相続人1人につき1枚で、他の相続手続きでは使えません。
例えば父が亡くなって配偶者である母と2人の子で法定相続情報一覧図を
作成したとします。
父の相続手続きでは作成した法定相続情報一覧図が当然使えますが、
母が亡くなった時の相続手続きには作成した法定相続情報一覧図は使えません。
母が亡くなった時には改めて母を被相続人とした法定相続情報一覧図を作る必要が
あるのです。
法定相続情報一覧図の作成は代行が可能
法定相続情報一覧図を作成して法務局への申し出を行うのは、
基本的に相続人の誰かです。
ただ代行も認められており、
相続人以外の親族や弁護士・司法書士などの士業に代行してもらうこともできます。
法定相続情報一覧図は相続手続きでしか有効でないものの法的効力を持つ
公的書類ですから、申し出の際に提出した書類に不備があるとやり直しとなります。
法定相続情報一覧図は決まった書式に則って作成する必要があり、
記載する情報に少しの過不足があってはいけません。
相続手続きが必要になることは人生で何度もないですから、法定相続情報一覧図を
作る機会も少なく何かしらのミスをしてしまう恐れが十分にあります。
何度も不備でやり直しとなると相続手続き自体が先に進みませんから、
専門家である士業に法定相続情報一覧図を作ってもらうのも1つの方法なのです。
ちなみに法定相続情報一覧図の作成を代行できる士業は以下の通りです。
・弁護士
・司法書士
・税理士
・行政書士
・弁理士
・社会保険労務士
・海事代理士
・土地家屋調査士
相続手続きには不動産の名義変更や相続税の申告が含まれるケースが多いです。
そのため法定相続情報一覧図の作成代行は、不動産登記が行える司法書士か
税申告が行える税理士に依頼するのが一般的となっています。
また法定相続情報一覧図の作成自体には費用はかからないものの、士業に代行を
依頼すると戸籍謄本の取得費用など実費以外に士業の報酬が発生します。
依頼する士業によって報酬額は変わりますが、
実費を含めて4~5万円ぐらいはかかると思っておいた方が良いでしょう。
法定相続情報一覧図は事前作成できない
法定相続情報一覧図は相続が発生している時でないと作成できません。
両親が高齢でいつ相続が発生してもおかしくないからと言って、事前に父と母
それぞれを被相続人とした法定相続情報一覧図を作っておくことはできないのです。
あくまで親や兄弟などの近しい親族が亡くなって相続手続きが必要となった時に
法定相続情報一覧図を作るようにしましょう。
ただ法定相続情報一覧図について、
事前に司法書士などの士業に相談したりアドバイスをもらうのは構いません。
既に死亡した相続人が居る場合の法定相続情報一覧図の書き方
相続が発生した時点で既に死亡した相続人が居る場合の法定相続情報一覧図の
書き方を紹介します。
法定相続情報一覧図に記載する情報は以下の通りです。
・被相続人の氏名
・被相続人の死亡時と出生時の住所
・被相続人の出生年月日と死亡年月日
・相続人の氏名
・相続人の出生年月日
・被相続人から見た相続人の続柄
相続人の誰かが申出人となる場合には氏名の後に「(申出人)」と記載し、
下の余白部分に作成日と作成者の氏名・住所を記載して押印します。
相続人の住所については任意となっており、
記載しても良いですし記載しなくても問題ありません。
既に死亡している相続人については
・氏名
・出生年月日
を記載する必要はありません。
既に死亡している相続人が配偶者の場合は、氏名の代わりに「配偶者」もしくは
「夫」「妻」といった被相続人との続柄だけを記載すればOKです。
子が先に死亡していて代襲相続が発生しない場合も同様で、
氏名ではなく「子」もしくは「長男」や「長女」など続柄だけを記載するのです。
代襲相続が発生しているケース
既に死亡している相続人が子で、その死亡している子に被相続人から見た孫が
居る場合には法定相続情報一覧図の書き方が変わります。
死亡している子に代わって相続人となる孫については、他の相続人と同様に
・氏名
・住所
・出生年月日
・被相続人との続柄
の記載が必要です。
また代襲相続人であることが分かるように被相続人との続柄は「孫・代襲者」といった
書き方になります。
死亡している子については氏名の代わりに「被代襲者」と記載して、
被代襲者の死亡年月日を記載するのが正しい書き方です。
法定相続情報一覧図においては死亡している相続人の氏名や出生年月日は
不要な情報なのです。
不要な情報を記載していると認証が得られずやり直しとなってしまいます。
死亡している相続人の続柄については注意も必要
代襲相続が発生していない死亡している相続人は、
法定相続情報一覧図では続柄のみの記載となります。
ただ続柄の表記の仕方によっては相続税申告など一部の相続手続きで
法定相続情報一覧図が使えないことがあるので注意が必要です。
死亡している相続人の続柄は配偶者なら「配偶者」「夫」「妻」のいずれかですが、
「配偶者」だと法定相続情報一覧図が使えない相続手続きが出てくる恐れがあります。
子の場合は「子」もしくは「長男」や「長女」などと記載しますが、「子」と記載すると
やはり相続税申告などで法定相続情報一覧図が使えなくなることがあるのです。
法定相続情報一覧図では死亡している相続人については不要な情報であるものの、
続柄だけはハッキリさせておかないと法的効力が弱まってしまいます。
相続放棄した相続人が居る場合の法定相続情報一覧図の書き方
生前の被相続人との関係が良くないなどで、
被相続人の生前・死後に相続放棄の手続きをした相続人が居るケースもあります。
相続放棄した人は相続人ではないので法定相続情報一覧図には記載しない、
と勘違いされがちです。
法定相続情報一覧図はあくまで被相続人や相続人の戸籍謄本の代わりでしか
ありませんから、戸籍謄本で確認できる情報以外は記載できません。
相続放棄した情報は戸籍謄本に記載されませんから、法定相続情報一覧図には
相続放棄した人の情報も相続人と同様に記載する必要があります。
相続放棄をしたことは法定相続情報一覧図には不要な情報ですから、
相続放棄した旨を記載することはできません。
相続放棄した人の情報が含まれる法定相続情報一覧図を使って相続手続きを
行う場合には「相続放棄申述受理証明書」などの補助書類が必要です。
相続放棄によって新たな相続人が加わった場合
本来の相続人が相続放棄することで、
本来は相続権の無い人が相続人となるケースがあります。
例えば父と母と子の3人家族で、父が亡くなったとします。
本来の相続人は亡くなった父の配偶者である母と子の2人ですが、子が相続放棄
すると亡くなった父の親、父の親が亡くなっていれば兄弟が相続人に加わります。
法定相続情報一覧図に記載されるのは本来の相続人の情報のみで、
相続放棄によって新たに加わった相続人の情報は記載されません。
相続放棄によって新たに相続人が加わった場合には、法定相続情報一覧図に
新たに加わった相続人の戸籍謄本をプラスしないと相続手続きに使えないのです。
別途戸籍謄本が必要なら法定相続情報一覧図を作る意味が薄くなるので、
法定相続情報一覧図なしの戸籍謄本で相続手続きを行う方が簡単かもしれません。
ちなみに相続放棄では放棄した人に子が居ても代襲相続は発生しません。
相続廃除された相続人が居る場合の法定相続情報一覧図の書き方
相続人の中に相続廃除の手続きが取られている人が居る場合は、
法定相続情報一覧図は相続廃除された人を除いた相続人の情報を記載します。
被相続人が生前に相続人から著しく不当な扱いを受けたあるいは
相続人に著しい非行がある場合には相続廃除の手続きが可能です。
要するに遺産を分け与えたくない正当な理由があれば、
被相続人は特定の相続人の相続権をはく奪することができるというわけです。
被相続人が生前に家庭裁判所に相続廃除申し立てをするか、相続廃除の旨を記した
遺言書を元に遺言執行者が被相続人に代わって申し立てをします。
家庭裁判所によって相続廃除が認められると、
廃除された相続人の戸籍謄本には相続廃除の事実が記載されます。
廃除されたことが戸籍謄本で確認できるので、廃除された相続人は初めから
居なかった者として扱われて法定相続情報一覧図に記載する必要がないわけです。
相続廃除で代襲相続が発生するケース
相続放棄では代襲相続は発生しませんが相続廃除では代襲相続が発生します。
相続廃除によって代襲相続が発生した場合、
法定相続情報一覧図は死亡している相続人と同様の記載となります。
相続廃除された相続人の氏名の代わりに「被代襲者」と記載して、死亡年月日の
代わりに家庭裁判所によって廃除が認められた年月日を記載するのです。
代襲相続人は氏名・生年月日・被相続人との続柄を記載、
続柄は「(孫・代襲者)」などといった形となります。
欠格事由に該当する相続人が居る場合の法定相続情報一覧図の書き方
民法には相続の欠格事由が定められており、
欠格事由に該当する人は相続権を失います。
欠格事由の詳細は割愛しますが、
実際に該当するケースが多い欠格事由は「遺言書の偽造・変造・破棄・秘匿」です。
欠格事由に該当したことは戸籍謄本で確認できませんから、法定相続情報一覧図には
欠格事由に該当した相続人の情報を記載しないといけません。
情報を記載した上で欠格事由に該当していることを証明する書類を添えることで、
法定相続情報一覧図を使った相続手続きが可能となります。
また欠格事由に該当することで特定の相続人が相続権を失った場合には
代襲相続が発生します。
ただし欠格事由による代襲相続は法定相続情報一覧図に記載しないので、
先の相続放棄のケースと同様に代襲相続人の戸籍謄本が追加で必要です。
まとめ
既に死亡している相続人が居る場合、法定相続情報一覧図には死亡している
相続人の氏名や生年月日、被相続人との続柄は記載しません。
代襲相続が発生しない場合は被相続人との続柄と死亡年月日を記載します。
代襲相続が発生する場合は氏名代わりの「被代襲者」と死亡年月日を記載し、
代襲相続人の氏名や続柄などの情報を記載します。
相続人が死亡している以外にも放棄・廃除・欠格などで相続人が相続権を失った場合、
それぞれのケースで法定相続情報一覧図の書き方が変わるのです。
少しでも不備があるとやり直しとなりますから、法定相続情報一覧図を作成するなら
司法書士や税理士などの士業に協力してもらうのがおすすめです。