親や祖父母など近しい親族が亡くなって相続が発生した時に遺産の相続人が
複数居ると「遺産分割協議書」を作って遺産の分け方を明確にします。
では遺産である預金の分け方はどうすれば良いのか、遺産分割協議書に
預金についてどのように記載するのかなどを詳しく見ていきましょう。
遺産の分け方は遺言書最優先
預金に限らず不動産などを含めた全ての遺産の分け方は、
亡くなった人が作成した遺言の内容を最優先とします。
相続人同士で話し合いをして遺産の分け方を決めても、
後から亡くなった人の遺言書が出てくればその内容を優先することになるのです。
相続人が知らないだけで亡くなった人が生前に遺言書を作成している可能性が
あります。
散々話し合って落としどころが見つかったのに、後から遺言書が見つかると
また遺産の分け方で相続人同士が揉めることも考えられます。
遺言書は公証役場に保管されていることもあるので、
遺産の分け方を話し合う前に遺言書を探すようにしましょう。
ただし相続人全員が遺言書の内容を承服しない場合には、
遺言書を無視した形で遺産を分けることもできます。
また遺言書は民法第960条に「法律の定める方式に従わなければならない」という
旨のことが明記されており、法律に則った遺言書でないと有効ではありません。
法的に有効でない遺言書でも、
相続人全員が承服すれば遺言書の内容通りに遺産を分けてもOKです。
最低でも遺留分の請求は可能
遺言書の内容によっては1円の遺産も貰えない相続人が出てくるかもしれませんが、
相続人は遺留分を請求する権利が与えられています。
遺留分は相続人が受け取れる最低限の遺産のことで、
遺言書の内容に関わらず相続人は請求することが可能です。
ただし遺留分が請求できる相続人の範囲は
・配偶者
・直系尊属
・直系卑属
に限られています。
直系尊属は簡単に言うと親や祖父母、直系卑属は子や孫のことです。
亡くなった人の両親は既に亡くなっていて子供も居ない場合には、
亡くなった人の兄弟姉妹や甥姪が相続人となります。
しかし兄弟姉妹や甥姪に遺留分は認められていないので、
遺言書が1円も貰えない内容であったとしても遺留分を請求できません。
また配偶者・直系尊属・直系卑属であっても、亡くなった人が生前に相続排除の
手続きを裁判所で行っていた場合には遺留分は請求できません。
遺留分の割合は直系尊属は遺産全体の3分の1、
配偶者と直系卑属は全体の2分の1です。
例えば3000万円の遺産を全額自治体に寄付すると遺言書に書かれていたとします。
相続人が直系尊属のみの場合、
直系尊属は遺産全体の3分の1である1000万円を遺留分として請求できます。
相続人に配偶者や直系卑属が含まれると全体の2分の1となるので1500万円を
遺留分として受け取れるのです。
遺留分を請求する相続人が複数の場合、
全体として受け取った遺留分を法定相続分で分けます。
法定相続では相続人が配偶者と直系卑属の場合は配偶者が2分の1、
直系卑属は残り2分の1を人数分で割ります。
相続人が配偶者と直系尊属の場合は配偶者が3分の2、
親などの直系尊属は残り3分の1が法定相続分です。
亡くなった人の遺産3000万円に対して配偶者と子2人が遺留分を請求したとすると、
配偶者は4分の1、子は1人当たり8分の1が受け取れることになります。
配偶者と親が遺留分を請求した場合は、配偶者が全体の3分の1、
親は全体の6分の1を受け取れます。
遺言書が無い相続での遺産の分け方は自由
遺言書が無い相続での預金など遺産の分け方に決まりはありませんから、
相続人同士が話し合って自由に分け方を決められます。
相続人が複数の場合は
・配偶者 2分の1
・直系尊属 3分の1
・直系卑属 2分の1(人数で頭割り)
の法定相続分で分けるのが一番簡単で落としどころが見つかりやすいのでは
ないでしょうか。
預金だけでなく不動産など分割できない遺産がある場合は、不動産は配偶者、
預金は子供といった分け方も可能です。
法定相続分に従わないといけないことはないので、
他の相続人が納得するのであれば1人で全て相続することもできます。
また分割できない不動産については複数の相続人で共有することも可能です。
ただし共有する不動産の売却や賃借には共有する相続人全員の承諾が必要なため、
分割できないとは言え不動産を複数の相続人で共有するのはおすすめできません。
遺産分割協議書に預金の分け方まで記載する必要がある?
相続することが決まった不動産の名義変更や預金の受け取りには
遺産分割協議書が必要です。
遺産分割協議書に必要な記載事項に「相続財産の具体的な内容」が含まれているので、
基本的には預金の分け方まで記載するのが一般的です。
ただ金額まで記載することは求められていませんから、預金総額がいくらで配偶者が
いくら子供がいくら相続するといった具体的な金額まで記載する必要はありません。
「相続人○○が3分の2、相続人○○が3分の1」などといったように、
金額を記載せずに相続割合だけ記載すればOKです。
預金総額を記載した方が後々トラブルになりにくい
遺産分割協議書に預金総額を記載する必要はありませんが、
記載しておいた方が後々トラブルになりにくいです。
金融機関によっては遺産分割協議書の内容に沿った形で相続人それぞれの
指定口座に亡くなった人の預金を振り込んでくれるケースがあります。
ただ全ての金融機関が個別振込を行ってくれるわけではなく、
代表者の口座に全額が振り込まれるケースも少なくありません。
代表者がいったん全額受け取るケースでは、代表者が遺産分割協議書に
記載された分割割合に従ってそれぞれの口座にお金を振り込みます。
代表者が相続人それぞれの口座に振り込む際に金額が多い少ないといった
揉め事が起こりやすいのです。
ちなみに代表者がそれぞれの口座に振り込む際の振込手数料の負担も
揉め事の原因となるので事前に決めておきましょう。
遺産分割協議書に預金総額と分割割合を記載しておけば、
1人当たりの相続金額が明確になるので後々トラブルになりにくいというわけです。
ただし遺産分割協議書に預金総額を記載する場合、
預金総額が1円で間違っていると遺産分割協議書が無効となる恐れがあります。
遺産分割協議書に預金総額を記載するなら金融機関に残高証明書を
発行してもらうのがベターです。
また相続遺産に定期預金が含まれる場合には、遺産分割協議書を作成してから
実際に遺産を受け取るまでに利息が発生することも考えられます。
利息によって預金総額が変わりますから、定期預金を相続する際には
既経過利息の計算書も残高証明書とは別に金融機関に発行してもらいましょう。
ちなみに残高証明書や既経過利息の計算書を発行してもらうのには手数料が必要で、
その手数料を誰が負担するのかも話し合っておいた方が良いです。
遺産分割協議書の必要記載事項
遺産分割協議書の記載事項に法的な決まりはありません。
しかし金融機関など相続の手続き先によっては、必要事項が記載されていない
遺産分割協議書は無効と見なされてしまう恐れがあります。
一般的に金融機関での手続きに必要な遺産分割協議書の記載事項としては
・亡くなった人の名前と亡くなった日付
・相続人全員が協議書の内容に同意している旨
・相続財産の具体的な内容
・相続人全員の名前と住所、実印の押印
などです。
相続財産の具体的な内容では、
不動産なら番地までの所在地と宅地や農地などの地目、地積まで記載します。
預金は金融機関名と支店名、普通や定期など預金の種類、口座番号、口座名義と
なります。
具体的な相続財産の内容に加えて、
それぞれの遺産を誰がどの割合で相続するのかも記載しておきましょう。
法的な決まりは無いものの記載事項に漏れや間違いがあると、
金融機関での相続手続きが進められなくなる恐れがあります。
何度も作り直すといったことにならないように、遺産分割協議書の作成に当たっては
税理士や行政書士など専門家に相談するのがおすすめです。
遺産分割協議書は作らなくても構わない?
遺産である不動産の名義変更や預金の受け取りに遺産分割協議書が
絶対に必要というわけではありません。
例えば相続人が1人の場合は、遺産を分割する必要がありませんから
遺産分割協議書は相続手続きには不要となります。
亡くなった人の遺言書があり、
その遺言書の内容に従って遺産を分割する場合も遺産分割協議書は要りません。
相続人が複数の場合でも、相続人全員で手続きするのであれば遺産分割協議書が
不要となるケースもあります。
遺産が預金のみで相続人が配偶者と子1人だと、遺産分割協議書が無くても2人で
金融機関に行って手続きすれば預金の受け取りが可能です。
ただ相続人が複数かつ遠く離れて暮らしている場合は、手続きのたびに集まるのも
大変ですから遺産が預金のみで遺産分割協議書を作っておくのがおすすめです。
また不動産の名義変更には遺産分割協議書が必要となるケースが多いので、
遺産に不動産が含まれる場合は遺産分割協議書を作っておきましょう。
預金の相続手続きに必要なもの
遺言書や遺産分割協議書だけを金融機関に持って行っても
亡くなった人名義の預金の相続手続きはできません。
まず遺言書がある場合、預金の相続手続きには
・遺言書
・検認済証明書、遺言書情報証明書
・亡くなった人の除籍謄本
・遺言執行者の実印、職印
・遺言執行者選任審判書謄本
・手続きする口座の通帳、キャッシュカード、証書など
が必要です。
遺言書が公証役場で作成・保存されている公正証書遺言であれば、
検認済証明書と遺言書情報証明書は不要です。
また自筆証書遺言でも法務局の遺言書保管所に保管されていないものだと
遺言書情報証明書は要りません。
除籍謄本については、亡くなった人の戸籍に健在の配偶者や子供が居る場合は
配偶者や子供の戸籍謄本(全部記載)でOKです。
遺言執行者を家庭裁判所が選任していない場合は
遺言執行者選任審判書謄本は不要です。
遺言執行者そのものを選任していない場合には、
遺産である預金を相続する相続人全員の実印と印鑑証明書が必要となります。
また預金の相続は口座の名義変更という形になるので、
新しく口座名義人となる相続人の銀行印も必要です。
(実印と一緒でも問題無い)
遺言書が無い場合
遺言書が無い場合の預金の相続手続きでは
・遺産分割協議書
・亡くなった人の出生から亡くなるまでの戸籍謄本
・相続人全員の戸籍謄本もしくは抄本
・相続人全員の印鑑証明書
・相続手続きをする人の実印
・手続きする口座の通帳、キャッシュカード、証書など
を用意しておかないといけません。
遺産分割協議書は必須ではありませんが、遺産分割協議書が無いと
金融機関が指定する用紙に相続人全員の署名と押印が必要となります。
遺言書がある場合は除籍謄本や亡くなったことが分かる戸籍謄本だけでOKでしたが、
遺言書が無い場合は亡くなった人の出生から亡くなるまでの戸籍謄本が要ります。
生まれてから本籍地を変えていなければ1か所で取得できますが、本籍地を
変更している場合は出生時からの全ての本籍地で戸籍謄本を取得しないといけません。
亡くなった人の年齢によっては古い手書きの戸籍謄本まで必要で、
取得するのに場合によっては数千円程度の手数料がかかってしまいます。
また本籍地を変更している場合は、
前の本籍地まで足を運ぶ交通費や郵送での取得にかかる運賃も発生します。
後で揉める原因にもなりかねませんから、亡くなった人の戸籍謄本取得にかかる
手数料や交通費などの負担をどうするかも事前に決めておいた方が良いでしょう。
預金の相続手続きに使う書類は全て原本
金融機関での預金の相続手続きに使う戸籍謄本などの書類は
基本的に全て原本となります。
金融機関でコピーするのですが、
最初からコピーしたものでは金融機関に受け付けてもらえません。
ちなみにコピーを取った原本は手続きが終わると返してもらえます。
また戸籍謄本や印鑑証明書はいつ取得したものでも良いわけではなく、
発行から3か月以内ものを求められるケースが多いです。
1年も2年も前に取得したものだと内容が変わっている恐れがあるので、
できるだけ直近に取得したものの提出が求められます。
まとめ
遺産分割協議書に決まった書き方はありませんが、
相続財産の具体的な内容が必要事項となっているケースが多くなっています。
預金総額まで記載する必要はないものの、誰がどのぐらい割合で相続するのか
という預金の分け方は記載しておかないといけないのです。
預金の相続手続きでは遺産分割協議書以外にも必要な書類がありますし、
遺産分割協議書に少しでも漏れやミスがあると手続きが進められなくなります。
また相続財産の総額によっては遺産分割協議書の作成後に相続税申告も必要です。
近しい親族が亡くなると悲しむ暇も無いほど忙しく、
相続手続きまで気が回らないことも少なくありません。
相続手続きでは少しの漏れやミスも許されませんから、遺産分割協議書の作成や
相続手続きについては税理士や行政書士など専門家に相談しましょう。