遺産の分け方が相続人同士の協議で決まらない場合には、
家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てるという方法があります。
自分に不利な結果にならないように遺産分割調停中にやってはいけないことや
遺産分割調停の際にやっておくべきことなどを詳しく見ていきましょう。
相続人全員の合意が無いと相続手続きができない
遺産分割協議や協議がまとまらない時に遺産分割調停を行うのは、
相続人全員の合意が無いと相続手続きができないからです。
相続遺産に土地や家屋といった不動産が含まれる場合には相続に伴う変更登記が
必要で、相続に伴う変更登記では遺産分割協議書が求められます。
預貯金は遺産分割協議書が無くても相続手続きができますが、
遺産分割協議書が無いと相続人全員で手続きを行わないといけません。
遺産分割協議書には相続人全員の自署と実印の押印が必要ですから、
当然相続人全員の合意が無いと遺産分割協議書は作れないのです。
遺産分割協議書が無いと相続手続きが前に進まないので、協議でまとまらなければ
調停を申し立ててでも相続人全員の合意が必要というわけです。
今後は遺産分割調停が増える可能性も
現状では協議がまとまらなくても調停まで持ち込まれるケースは少ないですが、
今後は遺産分割調停まで持ち込まれるケースが増える可能性があります。
2019年のデータですが、
厚生労働省によると亡くなった人の総数は約138万人となっています。
一方家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てた件数は
最高裁判所の調べによると1万6千件足らずとのことです。
亡くなった全ての人に相続遺産があるわけではないものの、
協議がまとまらなくて調停まで持ち込まれるのはせいぜい数%程度なのが現状です。
現在は不動産の相続登記に期限が設けられていないことも、
遺産分割調停まで持ち込まれるケースが少ない要因の1つと考えられます。
亡くなった親が持っていた不動産を誰が相続するかまとまらない場合には、
亡くなった親名義のままで置いておくことが現状ではできます。
何年もかけて協議を重ねて落としどころを見つけ、
調停に持ち込まれる前に解決するというケースが多いわけです。
ところが2024年4月1日以降は3年以内の相続登記が義務化となります。
2024年4月以降は相続遺産に不動産が含まれる場合には何年もかけて協議を重ねて
相続人全員が納得する落としどころを見つけることが難しくなるのです。
3年以内に相続登記しないと10万円の過料という罰則を受けますから、今後は協議が
まとまらないと早々に調停に持ち込まれるケースが増えることが見込まれます。
仲の良い兄弟姉妹でも遺産分割協議がまとまらないことは多いので、
親が不動産を所持していると誰しもが遺産分割調停を経験する可能性があります。
遺産分割調停が自分の望まない結果とならないように、これから紹介する
遺産分割調停中にやってはいけないことややるべきことを参考にしてください。
遺産分割調停中にやってはいけないこと
遺産分割調停では、相続人である調停を申し立て側と申し立てられた側に
中立の調停委員を加えて協議を行います。
調停委員は40~70歳の男女1名ずつで
・弁護士や元裁判官など法律的知識を有する人
・医師や大学教授、公認会計士など専門知識を有する人
・地域活動に深く関わってきた人
などで構成されます。
調停委員は相続人や被相続人とは関係の無い第三者で中立な立場ですが、
人間ですから心証の良し悪しで調停内容が左右することも十分に考えられます。
調停委員の心証が悪くなるとたとえ真実を言っていても信用してもらえず、
自分にとって不利な調停結果となってしまう恐れがあるということです。
ですから遺産分割調停中にやってはいけないのは、
調停委員の心証を悪くするような言動です。
遺産分割調停に出席しない
やってはいけないことと言うよりもやらない方が良いのは、
遺産分割調停に出席しないことです。
遺産分割調停は基本的に平日昼間に行われるので、
仕事の都合などでどうしても出席できないといったことが起こってしまいます。
遺産分割調停を欠席したからと言ってペナルティが課されるわけではありませんし、
すぐに自分に不利な調停結果が出るわけでもありません。
ただ遺産分割調停に出席しないことで「特に主張したいことが無いのでは?」という
印象を調停委員に持たれる恐れがあるのです。
調停委員に直接主張しないと自分の意見が通る可能性は低いですから、
遺産分割について何かしら意見があるなら調停には必ず出席しましょう。
どうしても出席できない場合には
遺産分割調停には出席した方が良いとは言え、
仕事の都合などでどうしても出席できないことも起こりえます。
どうしても遺産分割調停に出席できない場合には、
事前に対策を用意しておく必要があります。
例えば自分の意見を書面にして調停委員に提出し、
さらに自分が出席可能な次回期日の候補日をいくつか挙げておくといったことです。
書面ででも自分の意見を主張して出席可能な候補日を挙げておくと、
調停委員は「主張したいことが無いから欠席したのではない」と判断してくれます。
遠方などで出席は難しいものの調停の話し合い自体に参加する時間が取れるなら、
テレビ会議や電話会議を提案するのも1つの方法です。
受け入れてもらえるかどうかは調停委員次第ですが、
何としても調停に参加したいという気持ちが調停委員に伝わるはずです。
平日昼間はどうやっても時間が取れない場合には、
他の相続人に自分の意見を託すといった方法もあります。
相続人が自分を含めて2人だと無理ですが、
3人以上で自分に近い意見を持っている人が居れば可能です。
他の相続人に自分の意見を託す場合には、自署と実印を押印した
調停条項案の受諾書面を印鑑証明書を添えて提出することになります。
ただ他の相続人に自分の意見を託す方法では、
納得できない調停結果が出ても受諾せざるをえないのが大きなデメリットです。
平日昼間にどうしても時間が取れない上に他の相続人に自分の意見を託す方法も
使えないという時は代理人を立てる方法もあります。
遺産分割調停の代理人には弁護士を立てるのが基本ですが、
家庭裁判所の許可が得られれば弁護士以外の人を代理人として立てることも可能です。
遺産分割調停の弁護士費用
遺産分割調停の代理人に弁護士を立てた場合、
どのぐらいの費用がかかるのかが気になるところです。
弁護士は自由報酬となっているので費用は弁護士次第ですが、
かつては日本弁護士連合会が設けた基準に沿って報酬を決めていました。
自由報酬となった現在でも
かつての日弁連の基準に沿って報酬を決めている弁護士が少なくありません。
かつての日弁連の基準を参考にすると、遺産分割調停の弁護士費用は
・300万円以下 着手金8% 報酬金16%
・300万円超~3000万円以下 着手金5%+9万円 報酬金10%+18万円
・3000万円超~3億円以下 着手金3%+69万円 報酬金6%+138万円
・3億円超 着手金2%+369万円 報酬金4%+738万円
となります。
(着手金の最低金額は10万円)
例えば遺産分割調停の結果300万円を相続するとなった場合は、
着手金(8%)24万円と報酬金(16%)48万円の合計72万円が弁護士費用です。
依頼する弁護士によって着手金や報酬金は多少上下しますが、遺産分割調停の
代理人として弁護士を立てるには最低でも10万円単位のお金が必要です。
代理人に弁護士を立てても自分に有利な結果が出るとは言い切れませんから、
遺産分割調停を弁護士に依頼する際は慎重に検討してください。
不誠実な行動を取る
遺産分割調停に際して不誠実な行動を取ることも調停委員の心証を悪くする要因と
なります。
例えば事前に連絡せずに無断で調停を欠席する、大幅に遅刻するといったことが
あると「調停に真摯に向き合う気が無い」と調停委員に思われてしまいます。
自分に味方してくれないからといって中立な調停委員に横柄な態度で接する
ぞんざいに扱うのも大きなマイナスです。
調停委員はわざわざ時間を割いて自分たちの遺産分割の話し合いに
立ち会ってくれています。
こびへつらう必要はありませんが、
一社会人として礼儀正しく常識的な態度で接するだけで大丈夫です。
感情的になる
遺産分割調停の場で感情的な言動を取ることもマイナスとなります。
感情的になって相手の意見を遮るように大きな声で主張を繰り返すと、
調停委員に「まともに話し合いができない」と見なされる恐れがあります。
調停委員に話し合いができないと見なされると調停不成立となり、
裁判官が判断する審判へと移行してしまうのです。
審判ではより厳格に判断が下されるので、
少しでも有利な結果へ導くには自分の主張を裏付ける証拠の提出が必要となります。
調停でもそれなりに負担ですが、
審判となると当事者である相続人の負担がより大きくなってしまいます。
遺産分割調停を申し立てたということは、遺産相続に関して親族間で多少なりとも
揉めているわけでどうしても感情的になりやすいです。
冷静に話し合うために調停を申し立てて調停委員に立ち会ってもらっているので、
遺産分割調停では感情的にならないようにしましょう。
嘘をつく
自分に不利な事実を隠すなど嘘をつくことも遺産分割調停中に
やってはいけないことの1つです。
調停委員は事実に基づいて双方が納得できるであろう落としどころを提案してくれます。
調停で事実を隠されたり嘘をつかれたりすると、
調停委員は公平な判断ができなくなってしまいます。
また嘘をつくことで調停委員の信用を失って自分の主張が何一つ受け入れらず、
自分に不利な調停結果となる恐れもあるのです。
たとえ自分に不利な事実であっても包み隠さずに話すことが、
調停の場における誠実な態度なのです。
遺産分割調停に臨むに当たってやっておくべきこと
遺産分割調停中にやってはいけないこととは別に、
遺産分割調停に臨むに当たってやっておくべきこともあります。
遺産分割調停は事情が分かっている親族だけでなく、
人間関係や相続についての事情を全く知らない調停委員を含めた話し合いです。
事情を全く知らない調停委員の心証を良くして自分に有利な落としどころに
導いてもらうには、事前の準備や調停中の立ち居振る舞いが重要なのです。
言いたいことや主張したいことを書面にまとめる
遺産分割調停に向けての準備として、
まず自分の言いたいことや主張したいことを書面にまとめておきます。
これまで何度も協議を重ねてきた相続人同士なら、
自分の言いたいことや主張したいことは相手側にある程度伝わっています。
遺産分割調停では新たに加わる事情を知らない調停委員に対して、
改めて自分の言い分や主張を明確にする必要があるのです。
プレゼンや演説など人前で話すことに慣れているなら、事前に準備しておかなくても
遺産分割調停で自分の言いたいことが言えるかもしれません。
しかし人前で話すことに慣れていないと、緊張して言いたいことが言えないあるいは
言っていることが調停委員に伝わらないといったことになる可能性があります。
事前に自分の言い分や主張を書面にまとめて提出しておけば、調停で万が一
上手く話せなくても自分の言いたいことが相手側や調停委員にしっかりと伝わります。
自分の言い分や主張を裏付ける証拠や法的根拠を用意する
遺産分割調停を有利に進めるためには、自分の言い分や主張が間違っていないことを
裏付ける証拠や法的根拠を用意しておくことも重要です。
「お父さんは私にこう言った」「お母さんはこう思っているはず」など確かめようの
ないことを自分の言い分の根拠にしても調停委員に納得してもらいにくいです。
遺言書まできっちりしたものでなくても、亡くなった被相続人との間で取り交わした
相続に関する書面などがあると調停委員としても納得しやすくなります。
また
・法定相続分であるこれぐらいは貰う権利がある
・少なくとも遺留分は相続したい
など法的根拠に基づいた主張をすると、
相手側は反論しにくく調停委員は納得しやすいです。
証拠や法的根拠を用意するにはある程度相続や相続に関する法律に
詳しくなっておく必要があります。
付け焼き刃では調停でボロが出る恐れもあるので、
できれば事前に弁護士など専門家に相談しておくのがおすすめです。
譲歩できるところは譲歩する
調停で相続人同士が主張を押し付け合っていては結論が出ませんから、
譲歩できるところは譲歩するのがベターです。
自分が調停委員だとして、自分の主張を曲げずに一切譲歩しない人と相手の言い分を
ある程度理解して譲歩する人ではどちらの印象が良いでしょうか?
譲歩する人の方が話し合いに応じる姿勢が見られるので、
調停委員にも譲歩する人の方が信用してもらいやすいのです。
最初に書面としてまとめる際に自分の言い分や主張に優先順位を付けて、
・どうしても譲れない部分
・譲歩しても良い部分
をハッキリさせておくと良いでしょう。
例えばどうしても実家の建物は相続したいけど、
現金や預貯金は少ないもしくは相続しなくても構わないなどといった具合です。
よほどの交渉の達人でもないと、
調停の場で瞬時に譲歩できる部分とできない部分を判断することは難しいです。
調停中にあたふたすることがないように、
事前に入念な準備をしておくことが遺産分割調停を有利に進めるポイントとなります。
まとめ
遺産分割調停では調停に真摯に向き合い、
感情的にならずに客観的な事実を元に冷静に主張することが重要です。
調停の場で冷静になることは難しいですが、
事前にしっかりと準備しておくことで少しは落ち着いて調停に臨めます。
事前のしっかりした準備には法律的な知識も必要ですから、
遺産分割調停に臨む際には弁護士などの専門家に相談しましょう。