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真正な登記名義の回復とはどんな時に行う手続き?

不動産の登記上の所有者と実際の所有者が違う場合には
「真正な登記名義の回復」という手続きによる移転登記を行うことになります。

では真正な登記名義の回復とはどういった手続きなのか、そもそも登記上の所有者と
実際の所有者が違うとはどういった状況なのかなどについて詳しく見ていきましょう。

真正な登記名義の回復とは

真正な登記名義の回復とは、不動産の登記上の所有者と実際の所有者が違う場合に
登記上の名義を実際の所有者に変更するための手続きのことです。

例えば、ある土地の実際の所有者はBという人物なのに
訳あって兄であるAの名義で登記したとします。

土地の購入費用や固定資産税などの維持管理費をBが全て負担している場合、
真正な登記名義の回復によってその土地の名義をAからBに変更できるのです。

このケースで不動産登記法を厳格に適用するなら、実質的な所有者であるBが
土地を購入する前の状態に戻して登記をやり直す必要があります。

土地の名義をAから元の所有者に戻して、
改めて元の所有者からBに移転登記しなければいけません。

しかし真正な登記名義の回復の手続きをすれば、
元の所有者を介さずにAからBに移転登記できるのです。

通常の移転登記は譲渡や贈与によるものなので、
新しい名義人であるBに対しては不動産取得税や贈与税が発生します。

また土地を譲渡したAに対しては譲渡所得税が発生しますが、
真正な登記名義の回復は登記上の名義を正しいものに変更しただけです。

実際にAとBの間で土地は売買も贈与もされてないので、
真正な登記名義の回復では贈与税や不動産取得税、譲渡所得税は発生しません。
(登録免許税は別途発生)

ただし真正な登記名義の回復で実際に売買でも贈与でもなく、
実際の土地の所有者がBであったことを税務署に証明する必要があります。

速やかに登記内容を正すのが目的の手続き

真正な登記名義の回復は不動産登記法にそぐわない特例のような手続き方法ですが、
これは速やかに登記内容を正すことを目的としているからです。

国や自治体の登記情報は常に正確でないと、
土地を巡るトラブルが発生した場合に正しく対処できません。

土地の名義をAから元の所有者に戻してBに変更するといった不動産登記法に
則った手続きでは登記内容を正すのに時間がかかってしまいます。

元の所有者と連絡が取れて手続きに協力してもらえるならともかく、
実際には元の所有者と連絡すら取れなくなっていると手続きが進められません。

加えて住宅ローンを利用していてその土地が担保登記されていると、
金融機関にも担保登記をいったん抹消してもらう必要があります。

元の所有者としても既に売却した土地の名義変更で協力を求められるのは迷惑ですし、
金融機関としてもローンが残っているのに担保登記を抹消するのは難しいです。

AとBが事情を説明して元の所有者や金融機関に協力を求めている間、
その土地の登記は間違った状態となってしまいます。

登記が間違っている状態が長く続くのは国や自治体としても困るため、当事者である
AとBの間で登記情報を正せるようにしたのが真正な登記名義の回復なのです。

要件を満たしていないと真正な登記名義の回復はできない

当事者が申請したからと言って、
真正な登記名義の回復による移転登記がすぐにできるわけではありません。

以前は比較的簡単にできたのですが、不動産登記法が改正された現在は
要件を満たしていないと真正な登記名義の回復による移転登記はできません。

真正な登記名義の回復に必要な要件は
 ・現在の登記名義人の登記が実体に符合せず、登記名義人は所有権を有していない
 ・真実の所有者に所有権がある
 ・真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転をする必要がある
の3つです。

要するに登記上の名義はAだけれども、実際にその土地を所有しているのはBで
Aに所有権は無いことが1つ目と2つ目の要件です。

3つ目は登記上の所有者から実際に所有者に移転登記するのに、
元の所有者や担保登記している金融機関の協力が得られないことが当てはまります。

上記3つの要件を満たしていることをまとめて「登記原因証明情報」を作成して
法務局に提出、受理されれば真正な登記名義の回復による移転登記が可能となります。

ただ上記の3つの要件を全て満たすのは決して低いハードルではなく、実際に
登記上の所有者と実際の所有者が違うのに認められないことも考えられるのです。

真正な登記名義の回復による移転登記を希望する場合は、
登記のプロである司法書士や登記に詳しい弁護士といった専門家に相談しましょう。

真正な登記名義の回復に必要な書類と手続きの流れ

真正な登記名義の回復による移転登記を行うためには、
まず手続きに必要なものを揃えるところから始まります。

真正な登記名義の回復による移転登記に必要なものとして
 ・登記識別情報通知または登記済権利証
 ・印鑑証明書1通
 ・固定資産税の課税台帳登録事項証明書
 ・実印
 ・身分証明書
を現在の登記上の所有者が用意します。

実際の所有者で真正な登記名義の回復による移転登記を受ける側も
 ・住民票1通
 ・認印
 ・身分証明書
の用意が必要です。

ちなみに登記識別情報は登記名義人に割り当てられる英数字12桁のパスワードの
ようなもので、登記識別情報が記載されているのが登記識別情報通知です。

特に希望しない場合を除いては不動産登記を行うと法務局から発行されるので、
通常は登記名義人が登記識別情報通知を所有しています。

2005年の不動産登記法改正によって従来の登記済権利証の代わりとして
登記識別情報通知が発行されるようになりました。

不動産登記法改正以前に登記した不動産については、
従来の登記済権利証を登記識別情報の代わりとして使用します。

次に真正な登記名義の回復による移転登記を申請できる要件を満たしていることを
証明する登記原因証明情報を作成します。

手続きを司法書士や弁護士に依頼すれば、
登記原因証明情報は司法書士や弁護士が作ってくれます。

詳しく作成方法はここでは割愛しますが、登記原因証明情報の書き方やひな形は
ネットで調べられるので自分で作成する場合は参考にしてください。

登記原因証明情報など必要書類が用意できたら、
移転登記に必要な登録免許税を納付します。

登録免許税は不動産登記や国家資格の登録などにかかる国税で、
真正な登記名義の回復では贈与税などは不要ですが登録免許税は必要です。

登録免許税を納付した証明書を添付して真正な登記名義の回復による移転登記に
必要な書類を法務局に提出します。

2週間ほどして法務局から登記完了書類が送付されてきたら、
真正な登記名義の回復による移転登記は完了です。

登記が完了したことは税務署や都道府県税事務所にも通知され、
贈与税や不動産取得税などの税金の納付が求められます。

真正な登記名義の回復による移転登記では贈与税や不動産取得税などは不要ですが、
税務署や都道府県税事務所に税納付が不要であることを証明しないといけません。

実際の所有者が不動産の購入費用や維持管理を負担していたことを通帳の記載など
お金の流れが分かるもので証明することになります。

詳しい証明方法については司法書士や弁護士といった専門家にアドバイスを
もらってください。

登記識別情報や登記済権利証が無い!

真正な登記名義の回復によるものかどうかに関わらず、
移転登記には登記識別情報か登記済権利証が必要です。

不動産を所有する上で非常に重要な書類なので厳重に保管しているとは思いますが、
登記識別情報や登記済権利証が無いといったケースもあるかもしれません。

登記識別情報や登記済権利証が無くても真正な登記名義の回復による移転登記は
可能ですが手続きが増えます。

登記識別情報や登記済権利証は再発行されませんから、
別の方法で自分が登記名義人であることを証明しなければならないのです。

登記識別情報や登記済権利証が無い場合には、
1つに「事前通知」による本人確認を行う方法があります。

「事前通知」では、登記識別情報や登記済権利証を除いた移転登記に必要な書類を
法務局に提出します。

法務局から登記名義人に移転登記の申請が行われていることの通知が送られ、
その通知に登記名義人が署名・押印して返送すれば本人確認完了です。

法務局からの通知は本人限定郵便で送付されるので、
登記名義人本人が郵便局まで通知を取りに行く必要があります。
(代理人が通知を受け取ることはできない)

ただ事前通知は2週間以内に通知の返送が完了しなければならず、
返送に2週間以上かかると移転登記申請が却下されてしまいます。

資格代理人による本人確認

登記識別情報や登記済権利証が無い場合の本人確認方法としてもう1つ
「資格代理人による本人確認」があります。

司法書士や弁護士といった登記ができる代理人が本人と面談して身分証明書を
確認して、登記名義人本人であることを証明する方法です。

一般的には
 ・運転免許証、運転経歴証明書
 ・マイナンバーカード
 ・パスポート
 ・在留カード、特別永住者証明書
といった顔写真付き公的証明書類1点をもって本人確認を行います。

顔写真付き公的証明書類が無い場合は
 ・各種健康保険証
 ・国民年金手帳
 ・母子手帳
 ・身体障碍者手帳
など顔写真が付いてない公的証明書類2点の提出が必要です。

顔写真が付いていない公的証明書を2点用意できない場合は
 ・印鑑証明書
 ・住民票
 ・国家資格の合格証、免許証
などの証明書類1点と顔写真が付いていない公的証明書類1点で本人確認します。

さらに移転登記する不動産との関係性を示す
 ・売買契約書、領収書
 ・建築請負契約書、領収書
 ・移転登記する不動産の公共料金領収書
 ・固定資産税納税通知書
などの書類確認も必要です。

登記名義者本人であることが確認できたら、資格代理人が作成した本人確認情報を
登記識別情報や登記済権利証の代わりとして登記手続きが進められます。

事前通知は2週間という時間的制約があるので、登記識別情報や登記済権利証が
無い場合の登記手続きは資格代理人による本人確認で進めるのが一般的です。

登記識別情報や登記済権利証があっても、
それを使わずに資格代理人による本人確認で手続きを進めることもあります。

公証人による本人確認

登記識別情報や登記済権利証に代わる本人確認としてもう1つ
「公証人による本人確認」という方法もあります。

司法書士など資格代理人と公証役場に足を運んで、
公証人の前で本人確認を行って移転登記の委任状を作成する方法です。

真正なものであると公証人が証明する認証文が付された委任状が
登記識別情報や登記済権利証の代わりとなって登記手続きが進められます。

資格代理人による本人確認よりも確実性の高い方法ですが、公証役場に足を運ぶ
手間がかかるので一般的には本人確認方法としては用いられません。

真正な登記名義の回復による移転登記にかかる登録免許税

真正な登記名義の回復による移転登記でも登録免許税は発生します。

真正な登記名義の回復による移転登記は、
通常の土地売買による所有権の移転と同じと見なされます。

売買による所有権の移転では、移転登記する土地の固定資産税評価額の2%を
登録免許税として納める必要があるのです。

例えば移転登記する土地の固定資産税評価額が1000万円だと、
1000万円×0.02で20万円が登録免許税となります。

住宅の場合は建物に対して別途登録免許税がかかるので、土地・建物ともに評価額が
1000万円だと合計40万円の登録免許税を納めないといけません。

ただし2024年3月31日までの移転登記には特例が適用されて通常2%の
登録免許税率が0.3%に軽減されます。

ともに評価額1000万円の土地・建物を真正な登記名義の回復による移転登記すると、
1000万円×0.003×2で登録免許税は6万円となります。

土地・建物は評価額が大きいので登録免許税の金額も大きく、
1%の違いで数十万円違ってくることもあるのです。

真正な登記名義の回復によるものに限らず移転登記を考えているのであれば、
特例が適用される2024年3月末までに手続きを進めましょう。

登記上の所有者と実際の所有者が違う理由とは

経験したことが無いと、なぜ不動産の登記上の所有者と実際の所有者が違うことになる
のかよく分からないかもしれません。

ありがちなケースや実際にあったケースを紹介しながら、
なぜ登記上の所有者と実際の所有者が違うことになるのかを見ていきましょう。

ありがちなのは子供がマイホームを建てる時に住宅ローンが組めず、
子供に代わって親が住宅ローンを組むケースです。

転職などで勤続年数が短いと住宅ローンの審査に通らないことがあります。

そうした場合に実際には子供家族が住む家を親名義にして、
親が子供に代わって住宅ローンを組むわけです。

頭金やローンの返済、家の維持管理費は当然子供が全額負担しますから、
実質的な所有者は子供となります。

しかし登記上の所有者は親となっており、住宅ローンが原因で登記上の所有者と
実際の所有者が違ってしまうことがあるのです。

実際にあったケースとしては、
分譲地の抽選で名前を借りた兄弟の方が当選してしまった場合です。

人気の分譲地だと倍率が高いので、当選確率を上げるために購入希望者が
兄弟・姉妹や親戚などの名前を借りて応募することがあります。

例えば名前を借りた兄が当選してしまうと、
その分譲地の登記上の所有者は当然兄となるのです。

しかし実際にその分譲地を購入するのもそこに家を建てるのも弟で、
実際の所有者は弟となります。

分譲地の抽選で当選確率を上げるために名前を借りたことで、
登記上の所有者と実際の所有者が違ってしまうことがあるわけです。

まとめ

真正な登記名義の回復とは、不動産の登記上の所有者と実際の所有者が違う場合に
実態に即した登記内容に変更するための手続きのことです。

通常の移転登記よりも簡素な手続きで済みますが、
要件をクリアしないといけないので簡単にできる手続きではありません。

通常より簡素とは言え簡単な手続きではないので、真正な登記名義の回復による
移転登記を行う場合は司法書士や弁護士などに相談するのがおすすめです。

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