親や祖父母などが亡くなって不動産を相続すると、
相続する不動産価値に応じた登録免許税を支払わなければなりません。
では不動産価値ゼロの公衆用道路の登録免許税はどう計算するのか、
公衆用道路の補正率100分の30とは何なのかなどについて詳しく見ていきましょう。
相続登記の登録免許税
親や祖父母など近しい親族が亡くなると、
土地や建物といった不動産を相続することになるケースがあります。
相続する不動産は当然名義を変更しなければいけませんが、
相続に伴う名義変更が「相続登記」なのです。
一般的に不動産を取得すると「登録免許税」を納めることになるのと同様に、
相続登記でも登録免許税の納付が必要です。
ちなみに登録免許税は不動産などの取得そのものにかかる税金のことで、
弁護士や司法書士など国家資格の登録でも発生します。
相続とは関係の無い一般的な不動産取得で発生する登録免許税は、
取得する不動産の評価額に1000分の20をかけた金額となります。
対して相続登記の登録免許税は相続する不動産の評価額に1000分の4をかけた
金額で、一般的な不動産取得よりも大幅に安くなっているのです。
例えば評価額1000万円の土地を購入した場合は、
1000万円の1000分の20で登録免許税は20万円です。
同じ評価額1000万円の土地を相続した場合の登録免許税は、
1000万円の1000分の4ですから4万円となります。
公衆用道路の登録免許税
相続する不動産に面する道路が公衆用道路の場合、
形式上は宅地である土地や建物とともに公衆用道路も相続します。
公衆用道路も立派な不動産ですから、
相続する以上は評価額に見合った登録免許税を納めなければいけません。
ちなみに公衆用道路は一般的に私道とも言われるもので、
自身が所有する宅地から公道に出るまでの道のことです。
田畑の造成地や工場跡などを宅地にする際に、
元々の大きな1つの土地を分割して販売することがあります。
分割した全ての宅地から公道に出入りするための道を作るのですが、
この公道に出入りするために作った道が公衆用道路なのです。
大きな1つの土地を分割した場合は、分割した土地の所有者が共同で公衆用道路を
所有することになります。
(10軒分割だと1軒当たり公衆用道路の10分の1を所有)
公道に面した不動産には公衆用道路が無いケースが多く、公衆用道路が無い
不動産の相続登記では公衆用道路分の登録免許税は当然不要です。
公衆用道路の登録免許税の計算方法
公衆用道路の登録免許税も一般的な不動産と同じで、
相続登記の場合は評価額に1000分の4をかけた金額となります。
登録免許税の計算で使用される評価額は固定資産税評価額ですが、
公衆用道路の固定資産税評価額はゼロに設定されています。
ゼロにどんな数字をかけてもゼロになりますから、普通の計算では
固定資産税評価額ゼロの公衆用道路の登録免許税はゼロとなってしまうのです。
では公衆用道路の登録免許税は納めなくて良いのかと言うとそんなことは無く、
しっかりと公衆用道路の分の登録免許税も納めないといけません。
固定資産税評価額ゼロの公衆用道路の価値は
・近傍宅地の単価
・本地の単価
・公衆用道路に面する複数土地の単価
のいずれかで算出するのです。
「近傍宅地の単価」は簡単に言うと近所の土地の評価額で、
土地によっては固定資産税評価額証明書に記載されています。
固定資産税評価額証明書に記載が無い場合でも、登録免許税の納付申請を行う
法務局が参考とする近所の宅地を指定するケースがあります。
「本地の単価」は相続する土地・建物の評価額のことで、相続する土地・建物の
評価額を公衆用道路に当てはめて登録免許税を計算するわけです。
「複数土地の単価」は同じ公衆用道路に面している複数の土地の評価額を参考に
公衆用道路の登録免許税を計算します。
3つのいずれかの計算方法で1㎡当たりの単価を算出して、
公衆用道路の補正率100分の30をかけます。
さらに相続する公衆用道路全体の面積をかけて、公衆用道路を共同で所有する軒数で
割った金額の1000分の4が相続する公衆用道路分の登録免許税となるのです。
例えば1㎡当たりの単価が5万円で公衆用道路全体の面積が100㎡、
共同で所有する軒数が10軒だとします。
5万円に公衆用道路の補正率100分の30をかけて15,000円、
それに公衆用道路全体の面積100㎡をかけて150万円。
150万円を共同で所有する10軒で割って15万円、15万円に登録免許税率
1000分の4をかけた600円が公衆用道路の登録免許税となります。
登録免許税を計算する際には課税対象額の1000円未満、
登録免許税額の100円未満は切り捨てです。
公衆用道路の補正率100分の30とは
公衆用道路の登録免許税を計算する際に、
1㎡当たりの単価に対して100分の30という補正率をかけます。
形式上は所有していると言っても、公衆用道路を個人的な何かに使えるわけではないので資産的な価値は宅地よりも低いと考えられるわけです。
資産的価値が宅地よりも低いのに宅地と同じ登録免許税はおかしいので、
宅地の3割程度の価値として登録免許税を計算することになっているのです。
公衆用道路の補正率が100分の30は「財産評価基本通達(評基通)」の24
「私道の用に供されている宅地の評価」を根拠としています。
評基通24には「私道の用に供されている宅地の価格は(中略)価額の100分の30に
相当する価額によって評価する」と記されています。
これを根拠として周辺の土地などの評価額から算出した単価に100分の30を
かけたものを公衆用道路の単価として登録免許税を計算しているわけです。
相続不動産の登録免許税と公衆用道路の登録免許税は一括申請できない
細かいことですが、相続する不動産の登録免許税と公衆用道路の登録免許税は
一括で申請することはできません。
申請が2件になるので単純に手間がかかるのと、
別々に申請することで登録免許税額が少し増える恐れがあります。
登録免許税の計算では課税額の1000円未満、
登録免許税額の100円未満は切り捨てです。
先の例のようキリの良い単価になることはほとんどなく、
相続する不動産や公衆用道路の単価は10円や1円の単位となります。
相続する不動産と公衆用道路のそれぞれの単価によっては、
合算することで切り捨てらえる金額が大きくなることがあります。
公衆用道路だとせいぜい数百円程度の違いですが、相続するのが複数の宅地だと
合算するとしないとで登録免許税額が数千円違うこともあるのです。
複数の土地を相続する場合の登録免許税は別々で申請しなければならず、
合算で節税することは基本的にできません。
登録免許税の納付期限と納付方法
不動産登記における登録免許税の納付期限は「登記時」となっています。
相続登記の場合は、管轄の法務局で相続登記の申請を行う時点では
登録免許税を納付していなければいけません。
登録免許税を納付する前に相続登記の手続きをしても受け付けてもらえないので
注意してください。
納付方法は現金で支払うもしくは収入印紙を購入するのいずれかです。
現金で支払うと言っても、
登記申請の際に法務局に直接現金を支払うわけではありません。
必要事項を記入した登録免許税(国税)納付書に登録免許税額の現金を添えて
金融機関窓口に提出します。
金融機関で登録免許税を納めると領収証書が貰えますから、
その領収証書を法務局に提出する登記申請書に貼付しておけばOKです。
収入印紙は登記申請が行う法務局もしくは全国の郵便局やコンビニで購入できます。
ただしコンビニは店舗によって収入印紙の在庫が十分でないこともあり、
登録免許税額分を購入できないこともあります。
また金融機関で購入できるのは都道府県や市町村の収入証紙で、
国税の収入印紙とは別物なので間違えないように気を付けてください。
登録免許税を収入印紙で支払う場合は、
できれば法務局か郵便局で購入するのがおすすめです。
登記申請書とは別の紙に購入した収入印紙を貼り付けて、
登記申請書と収入印紙を貼り付けた用紙を綴って契印を押します。
ちなみに契印は綴った複数の用紙が連続したものであることを証明するもので、
2枚の用紙に跨る形でハンコを押してください。
ただし消印や割印が押された収入印紙は無効なので、
収入印紙にかからない形で契印を押しましょう。
基本的に収入印紙での納付は登録免許税額が3万円以下の場合ですが、
法務局によっては3万円を超える場合でも収入印紙で納付できるケースがあります。
相続登記の登録免許税が免除されるケース
公衆用道路を含む不動産を相続すると登録免許税を納めないといけませんが、
一定の要件を満たすと相続登記の登録免許税が免除されます。
相続登記の登録免許税が免除されるケースの1つは、
不動産の相続人が相続登記する前に亡くなった場合です。
例えば亡くなった祖父名義の不動産を父が相続することになったとします。
通常は祖父名義の不動産を父の名義に変更して、
固定資産税評価額の1000分の4に当たる金額を登録免許税として納付します。
しかし相続人である父が不動産の名義を変更する前に亡くなった場合には、
祖父から父への相続登記に対する登録免許税は免除されるのです。
手続き的には祖父名義の不動産を相続登記前に亡くなった父名義に変更、
さらに父の相続人である息子名義へと変更することになります。
父名義から息子名義への変更では登録免許税は発生しますが、
祖父名義から父名義への変更では登録免許税は不要です。
登録免許税の課税対象額が100万円以下
相続する不動産の固定資産税評価額が100万円以下の場合も登録免許税は
免除となります。
公衆用道路を含めた複数の不動産を相続する場合は、相続する不動産の合計ではなく
個別の評価額で登録免許税納付の要不要を判断します。
相続する土地・建物と公衆用道路の評価額がいずれも100万円以下であれば、
相続登記に対する登録免許税は納めなくて良いことになるのです。
登録免許税免除には申請が必要
相続税は相続額が基礎控除額なら何もしなくても免除となりますが、
登録免許税の免除には申請が必要です。
相続する不動産の登記申請書に
・相続人が亡くなった場合は「租税特別措置法第84条の2の3第1項により非課税」
・評価額100万円以下は「租税特別措置法第84条の2の3第2項により非課税」
と記載して提出します。
実際に登録免許税免除の要件を満たしていても、
登記申請書の上記の記載が無いと登録免許税は免除されません。
また租税特別措置法は時限法で、
いずれも有効期限は2025年3月31日となっています。
延長される可能性もありますが、現状では2025年4月1日以降は
要件を満たしていても登録免許税は免除されないので注意してください。
2025年に相続登記が義務化
2025年4月1日以降は、土地や建物といった不動産の相続が発生した時点から
3年以内に相続登記をしなければいけません。
現在は相続登記は努力義務で、
不動産を相続しても相続登記しないまま所有し続けることが可能です。
相続登記をしないと建て替えやリフォーム、売却などはできませんが、
土地や建物をそのままにしておくなら現状では相続登記しなくても問題ありません。
(国にとっては大問題ですが・・・)
しかし2025年4月1日以降は3年以内の相続登記が義務化となるため、
相続登記せずに相続した土地や建物を所有し続けることはできないのです。
現状で相続登記せずに相続した土地や建物を所有している場合も、2025年4月1日
以降は罰則の対象となる恐れがあるので早めに相続登記を済ませておきましょう。
不動産を相続したら登録免許税だけでなく相続税の納付も忘れずに
近しい親族が亡くなって不動産を相続することになったら、
相続登記の登録免許税だけでなく相続税の納付も忘れないでください。
相続税は被相続人が亡くなった日の翌日を起点として10か月以内に
申告・納付しなければいけません。
期限を1日でも過ぎると
・無申告加算税
・延滞税
・重加算税
といった追徴税を課せられる恐れがあります。
相続税には基礎控除額が設定されていて、相続財産の総額が3000万円+600万円×
相続人数の範囲内であれば相続税はゼロで申告も必要ありません。
不動産は固定資産税評価額が相続税の課税対象ですから、
固定資産税評価額がゼロの公衆用道路は相続税の対象にはならないです。
まとめ
土地や建物といった不動産を相続した場合には、
その不動産に面する公衆用道路の分も登録免許税を納める必要があります。
ただ固定資産税評価額がゼロの公衆用道路の評価額の算出、補正率100分の30を
かけて道路に面する軒数で割ってなど登録免許税額の計算は少しややこしいです。
間違った税額を納付すると手間が増えるだけなので、
相続登記で登録免許税を納める際には税理士に相談するのがおすすめです。
相続登記自体の手続きは司法書士でないとできませんから、
できれば司法書士と連携している相続手続きに強い税理士を探しましょう。